Robbie Williams『Better Man』バンコクの熱と、何者でもない僕

整体の仕事をしている一方で、私にとって音楽は昔から大切な存在です。このカテゴリーでは、施術を少し離れて、心に残った音楽や本、映画について書いています。

この曲が大ヒットしていた時、僕はバンコクにいた。

あの頃の僕は、ただ誰も自分のことを知らない世界に身を置いていたかったのだ。

ただ生きているってことだけを感じていたかったのかもしれないし、日本のあの窮屈だと感じていた世界から少しだけ離れてみたかっただけなのかもしれない。

当時のバンコクは、今よりもずっと東南アジア特有のまとわりつく熱気と湿り気が残っていた。

別に「昔は良かった」なんて話じゃない。
ただ、あの街の濃密で重い空気が、どこにも行き場のない自分の所在なさを、すっぽり包み込んでくれていたのは確かだ。

そんな街のどこかの食堂で、絶妙にぬるいシンハーを飲み、フライドライスを食べている。

店の隅ではMTVが流れ、Robbie Williamsの『Better Man』が何度も流れていた。

ロビーは「もっとマシな男になりたい」と歌っていた。

けれど、当時の僕は、別にマシな男になりたかったわけじゃない。

かと言って、世界を捨てたかったわけでもない。

ただ、生きていることを感じていたかっただけだった。

誰の知り合いでもない。

何者でもない。

自分を自分として認識するのも拒んでいた。鏡を見ることも、ガラスに映った自分を見ることも拒否していたように思う。

ただ、まとわりつく熱気の中で息をして、心臓が動いていることだけを確かめたかったのだ。

あれから長い年月が過ぎ、僕はどうやらアラフィフになったようだ。

しかし相変わらず、世界と僕の距離はつかず離れずだ。

劇的に何かが変わったわけじゃない。

世界が急に優しくなったわけでもない。

だけど、まあ何とかやっている。

今でも『Better Man』を聴くと、あの熱気を思い出す。

湿った空気

絶妙にぬるいシンハー

店の奥で流れるMTV

そして、何者でもなかった、何かになりたかったわけじゃない頃の僕。

あの熱とも言えない熱だけは、今でも身体のどこかに残っている気がする。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次